第一高等学校・東京大学弁論部

ディベート

「ディベート(debate)」は日本語に訳せば「討論」ですが、おそらくディベートを見たことのない人が「討論」と聞いて想像する光景と、競技としてのディベートはかけ離れていると思います。ディベート(競技ディベート)は非常に細かくルールが決められた、いわば「ゲーム」なのです。

ディベートでは、事前に発表された論題を「肯定」する側と「否定」する側に分かれて議論を戦わせます。日常の討論ではそれぞれがそれぞれの意見(もしくは自分の信念)に基づいて議論を行いますが、ディベートでは、たとえ自分の意見と異なっていても、試合前に指定された側に立って議論を展開しなければなりません。たとえば2014年のJDA春季ディベート大会の論題は「日本政府は、全ての遺伝子組換え食品の輸入、製造および販売を禁止すべきである」でした。ここで選手がいかに遺伝子組換え食品が嫌いであっても、試合によっては否定側、つまり「禁止すべきでない」との立場を主張することもあります。そのため、肯定側・否定側のどちらの立場の主張もできるように準備しておかなければなりません。

また、日常の討論と異なり、ディベートでは「言い負かしたほうが勝ち」ではありません。両側の議論展開を吟味し、どちらが正しい政策であるかを判断するのは、第三者のジャッジ(審判)に委ねられています。そのため、いかにジャッジに説得的にスピーチできるかが鍵となってきます。

選手は、主張する内容を裏付けるために証拠資料を引用します。これは、専門家が執筆している本や論文などを抜粋することが多いです。そのため、選手は試合の前に様々な文献を読み、証拠資料を揃えておかなければなりません。しかも、単に偉そうな人が文献に書いているからといって、無条件にその内容が正しいと認定されるものではありません。相手側が反証する資料を提示してくることもあるので、自分の出そうとする資料が本当なのか、そのように記述されている根拠は何なのかなどを吟味することが求められているのです。

さらに、選手は自分の言いたいことを無制限に言えるわけではなく、主張したい内容をスピーチできる回数と時間が厳格に決められています。以下では、主に大学以降の大会で用いられる二回立論形式(通称:二立)を紹介します。

第1立論(6分間)・第2立論(6分間)
肯定側は、論題に基づいてプランを提案し、「このプランを採用するとこんな良いことが起こります」と主張します。否定側は「そのプランを採用するとこんな悪いことが起こります」と主張します。またそれぞれの主張について、「そんなことは起こらない」と反駁(反論)も展開していきます。プランに関する新しい話題が出せるのは第2立論までです。

質疑(3分間)
それぞれの立論の後に、その立論について相手側が質疑をします。ここでは主張の理由がよく分からなかったところについて質問して明らかにするとともに、ジャッジ(審判)に対して相手の主張の不明確さをアピールすることを目的にします。

第1反駁(4分間)
相手に再度反駁を加えつつ、これまで出た双方の主張をまとめます。

第2反駁(4分間)
これまでの議論を全てまとめて、自分たちの主張が相手より勝っていることをアピールします。ただ相手を否定するだけではなくて、ジャッジにどんな観点から自分たちの主張を取ってほしいか説明します。

各パートの間には、合計8分間まで(JDA大会)準備時間をとることが認められています。準備時間をどこで取るのか、あるいは取らずに相手に考える隙を与えないのか、なども作戦によります。

高校までの一回立論形式と大きく異なる点は、第2立論があることです。そのため、議論に上がる話題はとても多く、また反駁も何回も繰り返されます。そのため、相手の多くの主張に対応する必要があり、どの主張に反駁しなければならないか、どのように反駁すれば相手の主張を崩すことができるかを的確に見抜く技術も求められます。

このようにディベートは多くのルールが厳格に決められている「ゲーム」の側面を持つことが分かっていただけるかと思います。その一方で、スピーチの時間中にはルールに従いさえすればどのような主張をしてもよいので、同じ論題でも自由度は高くいろいろな戦略が立てられます。どのような試合展開になるかは選手次第ということができるでしょう。

ここまで読んでみると、「日常の討論とは全く毛色が違うし、何だか難しそう!」と思われる方も多いのではないでしょうか。しかし、そんな心配は不要です。例年、弁論部には大学以前にディベートに全く関わってこなかった人も多く入部していて、現役部員が初歩から指導しています。一年と経たぬ間に、経験者と対等に渡り合うまでに育つことでしょう。自分の主張を説得的に展開する技術はあらゆる場面で役に立つので、議論が好きな人、ジャッジを説得する面白い戦略を考えてみたい人、とにかくしゃべってみたい人など、少しでも興味を持たれた方は、ぜひ部会や大会を覗いてみて下さい!